神経調節性失神

先日は一般内科外来の担当の日程であった。朝から夕方まで主に午前中メインで予定の患者さんと、予約外での患者さんの診察を担当させて頂く。

 今回は30歳台の若い女性の方であった。マイクで名前を呼ぶと、すっと鼻筋の通ってすスラリとした背の高い体格の女性が入ってこられた。聞けば、鼻水や咽頭の痛み咳などの症状があるとの事。一通り診察をして、緊急性の高そうな疾患は該当しないと判断した。咽頭炎、上気道炎として薬を処方させて頂く事を伝えた。診察室で電子カルテを打ち込み、私は診察終了ボタンを押して、処方箋の印刷を待つ。わずかであるが、診察室に沈黙の時間が流れる時間だ。さて、次の患者さんはどなただったかな・・・。私が次のカルテを開こうとした瞬間。「先生実は・・・」

 外来をやっていて、私達臨床医(勤務医、開業医さんを含め)は予約の患者さんと、予約外の患者さんを混ぜこぜで診察させて頂いている。新しく来られた患者さんは概ね我々医療従事者は新患(新しく来られた患者さん)と呼んでいる。一般的には、新患患者さんは、既往症や、合併症、嗜好歴など、色々な情報を最初から取り直す必要があるので、最低でも10分程度はかかる。病態が落ち着いていれば10分で済むが、急性疾患を抱えていらっしゃられると、緊急での検査を幾つも行う必要があることもあり、30分、1時間果ては入院や転院依頼が必要になることがある。そういった意味で、予定の安定した患者様はこれらに比べると、「変わりないですか」「体調はばっちりです」などの会話で終わってしまうことも多く、早ければ3分、じっくり話をしても10分程度と短時間で診察が済んでしまうことも多く、あわただしい朝の外来の中では時間配分を予想できる、ありがたい存在である。もちろん、こういった患者様が状態が悪くなった場合は30分~1時間追加で診察、検査などを行う必要がでてくるが。

 そういった意味で、今回の30台の女性は新患ではあったが、症状は軽いもので、比較的早く診断がついて終わろうとしていたところだった。しかし、この言葉「先生実は・・・」が発せられたのだ。実は予定外来患者様でも、話は全て終わって次の患者さんにうつろうというときに同様に「実は・・・」と切り出されることがある。そして、多くの場合この「実は・・・」の内容が一番重要であることが多い。とても無視できるような内容では無いことが多いのだ。我々も、こういった展開になるととたんに心構えを変えて注意して、エピソードを確認させてもらう。

 どうやら、数日前に一度目の前が真っ暗になったということだ。パソコンでいうBlack outといった所であろうか。高齢者のBlack outは注意が必要だ。特に片側の目が見えなくなるというのは、非常に危ない。実は片側の目が一時的に見えなくなるという病気は黒内障という名前がついており、目の感覚、神経をつかさどる脳の部分に一過性の虚血が起こり、機能しなくなるという病態が隠れていることがある。これは、脳梗塞の手前の病態であり、非常に危険であるのだ。そういった意味で、私はこころして今回のエピソードを聞いた。

 どうやら、熱い外で脱水の状況で、立ち上がった際に両目の目の前が暗くなるような感覚があったとの事だ。わたしはほっとした、これは両目であること、立ち上がった際という状況からすると、先ほどの黒内障を疑う状況ではなかったのだ。

 病名は神経調節性失神と判断した。(正確に言うと今回は失神はなかったが)脱水や低血圧の方が急に立ち上がると、頭位が突然あがり、あたまにいく血流がいきなり低下してしまい、一時的に脳に血流がいかなくなることがあるのだ。これは、血管が細いとか硬いとかいう問題は通常存在しないため、脳梗塞のリスクは考えなくてよいのだ。そういった意味で今回の病態はまさに神経調節性のものと考えられた。聞けば昔から同様の症状があって、症状事態はいつもとあまり変わらないとの事である。また血圧も普段90台との事でもともと低めであった。

 わたしはいままでの経過も聞いてほっと胸をなでおろし、生活での注意点などを伝えて、診察を終了とした。神経調節性失神は今回のようなやや血圧の低い方だけでなく、高齢の方も立位の際に神経が反応せず、頭へ行く血流が低下して、本当に失神して救急搬送されてこられることもある。病態がわかれば、おそるるにたらないのであるが、体調が悪いときは突然襲ってくることもあり、注意が必要なのだ。人それぞれに、人それぞれの病態がある。やはり、内科は診断学であり、いつまでも興味深いものだなと思ってその日の外来を終了したのである。

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